【ビジネスのつぼ】資生堂 しわ改善で女性に豊かな表情取り戻す

ヒットに貢献した事業戦略本部の下村敦氏(左)とコスメティクスブランド事業本部の北原規稚子氏
ヒットに貢献した事業戦略本部の下村敦氏(左)とコスメティクスブランド事業本部の北原規稚子氏【拡大】

  • 資生堂が6月から販売する薬用クリーム「エリクシールシュペリエルエンリッチドリンクルクリームS」
  • 表情プロジェクトのCMには宮沢りえさんら有名女優が出演している
  • 資生堂が社員向けに提供している初心者向けの英語講座

 □資生堂「エリクシール シュペリエル エンリッチド リンクルクリームS」

 資生堂の薬用クリーム「エリクシール シュペリエル エンリッチド リンクルクリームS」が人気だ。しわ改善効果のある成分「純粋レチノール」を配合した医薬部外品とあって、6月21日の発売後1カ月で単一商品では異例となる68万個を出荷。若々しくあり続けたい女性の心をひきつけている。ヒットの裏には、商品化や宣伝で重要な役割を担った2人の社員の熱意があった。

 ◆横断プロジェクト

 今年4月、資生堂が「表情プロジェクト」と銘打ったブランド横断のプロモーション活動をスタートさせた。厚生労働省から純粋レチノールの効果を認められたのを受けたものだ。

 4~6月には、第1弾商品であるリンクルクリームSの発売に合わせてCMを放映。宮沢りえさんや石田ゆり子さんら有名女優6人を起用し、ナレーションで「しわから自由になると、表情はもっと自由になる」と語りかけた。商品や純粋レチノールは、あえて前面に出さなかった。プロジェクトを率いた事業戦略本部の下村敦新規接点開発室室長は「議論を重ねた結果、豊かな表情を取り戻してほしいという、自分たちの思いを訴えることにした」と説明する。

 化粧品の宣伝は、ブランドごとに行うのが普通だ。化粧品メーカーだけに宣伝は得意だが、横断プロジェクトの経験はほとんどなく、手探り状態で始めざるを得なかった。

 しかも、時間がなかった。立ち上げが決まったのは、純粋レチノールの効果が認められた2月28日の1週間前。4月20日に設定された新商品発表会まであと2カ月しかない。

 まず営業や研究開発といった関係部署から有志を募ったところ、すぐに約30人が集まった。それほど新商品に期待する社員は多かったのだ。だが、それからが大変だった。メンバーは別の仕事を掛け持ちしているので忙しい。そこで6つのグループに分かれて準備を進める一方、毎週火曜に全員が集まると決めておき、そこで一気に懸案を決めていった。苦労の甲斐あり、CMとウェブ動画のそれぞれが日本最大級の広告賞で受賞。下村氏は「これほど短期間の準備は初めて。本当に大変だったが報われた」と振り返る。

 そのころ、スキンケアブランド「エリクシール」を統括するコスメティクスブランド事業本部の北原規稚子ブランドマネージャーは、商品化に奮闘していた。

 資生堂は純粋レチノールの研究を約30年前から行ってきた。医薬部外品としての発売は、資生堂の悲願だった。

 それは北原氏にとっても同じだった。「しわは女性の大きな悩み。それを解決する純粋レチノールは必ず受け入れられる。ぜひエリクシールから発売したい」。効果が認められると、急いで企画をまとめた北原氏は商品化を決める会議に出て、居並ぶ役員の前で熱弁を振るった。

 ◆生産数相次ぎ上方修正

 エリクシールは、競争の激しい国内スキンケア市場で10年間も売り上げ首位を続けてきた重要なブランドだ。ブランドイメージへの影響などを考慮する必要があった。結論は翌日に持ち越され、長い一日となったが、最終的には幅広い消費者と接点を持つエリクシールで発売したいという熱意が認められた。

 ところが、予期せぬ事態に直面する。発売が発表されると、予想をはるかに超える引き合いが殺到したのだ。北原氏は急ぎ計画を修正し、生産能力を増やす必要があると判断。自ら静岡の工場に赴き、「必ず多くのお客さまに求められる商品になるので安心してほしい」と工場長らを説得した。

 その見立ては間違っていなかった。表情プロジェクトの効果もあいまって、当初100万個としていた今年の販売目標は、8月に120万個、11月上旬には130万個と相次ぎ上方修正された。北原氏は「ブランドマネージャーが自ら工場幹部に掛け合うことは普通ない。それだけ販売機会を逃すまいと必死だったのだろう」と笑う。

 資生堂は、今後も純粋レチノールを配合した医薬部外品を充実させる考えだ。11月1日には第2弾商品として、しわ改善と美白の効果を両立させたクリームを「SHISEIDO」ブランドから発売。クリスマスプレゼントの需要取り込みを意識した新CMの放映も始めた。

 「しわ改善は、近年ブームになったアンチエイジングや美白と並ぶ市場に育つ可能性を秘める。純粋レチノールという有望な成分を浸透させ、女性の表情を豊かにできるかは自分たちにかかっている」。下村氏はヒットの継続を誓う。(井田通人)

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 ≪企業NOW≫

 ■英語を公用語に、グローバル化推進

 資生堂は2018年10月から英語を公用語化する。本体の本社部門と、国内子会社の資生堂ジャパンの一部が対象で、日本語を話せないメンバーが一人でもいれば、会議やメール、電話を英語でやり取りする。国内の化粧品大手が英語を公用語化するのは初めてだ。

 資生堂は現在、約120カ国でビジネスを展開。連結売上高に占める海外の比率は、17年12月期見通しで57%まで高まっている。一方、東京・汐留の本社事務所で働く外国人は百数十人まで増えている。公用語化は、グローバル化に伴う取り組みの一環という。

 資生堂は、15年に地域本社制を導入。米国や中国といった地域ごとに収益管理や商品開発を行う体制を整えた。日本の本社はこうした地域本社を支援する役割も担っており、公用語化でコミュニケーションの円滑化を図る狙いもあるとみられる。

 同社が11月から希望者に英会話や英語能力テスト「TOEIC」対策の講座を無償提供し始めたところ、実に2000人が希望したという。同社はほかにも英語が苦手な人や初心者向けの講座を行っているほか、TOEICを無料で受験できたり、その点数が高いほどオンライン英会話などを安く利用できる仕組みも取り入れている。

 もっとも、英語はあくまで手段と位置づけている。魚谷雅彦社長は「社員同士の交流が深まったり、企業内の文化がもっとオープンになれば」と公用語化の効果に期待する。

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 ■資生堂

 【設立】1927年(創業1872年)

 【本社】東京都港区(本店は同中央区)

 【資本金】645億円

 【売上高】8503億円

 【従業員数】3万6549人

 【事業内容】化粧品の開発・製造・販売

 ※いずれも2016年12月末時点