テクノロジー

春の手間省きたい 田に種籾を播くイネの初冬直播き栽培、実用化に大きな一歩

 効率的な稲作ができるという栽培方法が研究されている。積雪前の田んぼに直(じか)に種籾(たねもみ)を播(ま)く「イネの初冬直播き栽培」というやり方だ。春に種籾を直播きする方法はあるが、春は稲作以外の農作業も忙しい時期。冬のうちに直播きができれば、春の農家の手間は大きく省ける。これまでの実験結果は良好で、実用化に向けて大きく前進している。(石田征広)

 課題

 一般的な稲作の春の作業は(1)3~4月にビニールハウス内など温かいところで種籾を播き苗をつくる「育苗」(2)同じころ田んぼの土を掘り起こし、肥料を入れる「田起こし」(3)4~5月に田んぼに水を入れて田植え-となる。春の直播きは(1)と(3)の工程を省くことができるが、(2)は基本的に春やらなければならない。

 農家の高齢化や人手不足が進む中、より作業の分散化、省力化を図るために岩手大学農学部植物生命科学科の下野裕之教授が平成20年から実用化に取り組んできたのが初冬直播き栽培。下野教授が初冬の直播きに着目したのは米どころが積雪寒冷地に多いためだ。雪が断熱材代わりになり、種籾が冬を越せると考えた。

 (2)をやらなくてもいい、この稲作方法の実用化のカギは、越冬した種籾の春の出芽率をどう高めるかだった。地表面近くは冬期間に零度前後になる。実験開始当初、この厳しい環境下での出芽率は5%に止まっていた。

 試験

 試行錯誤の末、種籾に鉄粉などをコーティングしたところ出芽率は25%まで向上。27、28の両年に青森県弘前市で、特に寒冷地に強い品種でテストした結果、10アール当たりの収穫量はそれぞれ540キロと600キロに達し、通常の稲作栽培と遜色ない結果となった。

 そこで30年から、下野教授を中心に北海道から福岡県まで11研究機関、3農業法人が参加する3カ年の本格的な実用実験がスタート。初年は全国11カ所でテストし、札幌市や新潟県上越市など積雪寒冷地8カ所全てで出芽率25%の目標をクリアした。

 下野教授は「積雪寒冷地全てで春の直播きよりも成育が速く、収量も同等かそれ以上が期待できる状態。この技術が積雪寒冷地に有効であることが改めて分かってきた。実用化に向け、大きな手応えを感じている」と話す。

 希望

 3カ年の実験は安定した栽培技術を構築するのが狙い。出芽率は初年度の目標25%をクリアしたが、2年目は35%、3年目と50%がハードルが高くなる。春の直播き栽培の出芽率は70~80%だが、初冬直播きの場合は効率化の効果などもあり50%で安定した採算ラインに乗るという。

 下野教授は「鉄粉を上回るコーティング材や種籾そのものを強くする処理方法も分かってきた」と希望を語り、さらにこう話した。

 「この栽培法は積雪の多い東北から北陸、北海道の米どころほどメリットがある。直播きする田んぼを不耕起や田起こし済みのどちらにするかなど、いろいろな条件の組み合わせで最適の栽培法の実用化を急ぎたい」

 稲作から育苗や田植えが省けるメリットは計り知れない。大幅な労力とコストの削減で、農家は規模拡大や多角経営の選択肢を増やすことができる。早期の実用化が期待されている。

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