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「子会社にライバル製品を売らせよう」年商4000億円企業アスクルを育てた経営判断 (1/3ページ)

 イノベーションには「起業家精神」が不可欠だ。だが組織の中では、起業家的な行動の芽が摘まれてしまうことも少なくない。神戸大学大学院の栗木契教授は「中間マネジメント層に意識改革を求めるだけでは、状況の大きな改善は望めない。組織全体での取り組みが必要だ」と指摘する――。

 コロナ禍という災いを福に転じるために

 市場はコロナ禍のもとでも、そのダイナミズムをいかんなく発揮している。繰り返されるコロナの波を受けて市場の各所で大きく需要が縮小している一方で、新たな機会も広がっている。たとえば在宅ワークや巣ごもり消費を支える市場は拡大傾向にある。

 市場とは、製品やサービスの供給者とその使用者の交換にかかわる社会的な場である。コロナ禍は市場のダイナミズムを高め、起業家(entrepreneur)が活躍できる領域を新たに広げている。

 コロナ禍という災いを福に転じていくために、企業はどう動けばよいか。新たに広がる市場の機会を迅速にとらえるために、組織における起業家精神を活性化する手立てを整える必要がある。

 日本企業にイノベーションが生まれにくいのはなぜか

 ここで気になるのが、コロナ禍以前より日本では、起業家精神の衰退が指摘されていたことである。起業家精神は、市場のダイナミズムを受け止め、社会や企業のイノベーションを活性化するうえで重要である。ところが日本では個人起業家のみならず、企業においても、画期的な製品やサービスをリリースして世界をリードする動きが細っていることが指摘されてきた。

 この10年を超える期間において、デジタル化が進む市場に大きな機会が広がっていたのに、自社内から目覚ましいイノベーションが生まれなかったのは、なぜか。この反省を踏まえて、日本企業はコロナ禍のネガをポジに変える起業家的行動を組織内の各所で活性化していかなければならない。以下では、そのために企業が取り組むべき課題を、アスクルを事例に検討する。

 起業家精神が潰されてしまう組織の力学

 イノベーションの担い手を、起業家という。このJ.シュンペーターに由来する経営学の考えにもとづけば、個人企起業家だけではなく、企業などの組織のなかの各種のイノベーションの担い手も起業家といえる。

 イノベーションに求められる必須に条件は、新しい製品やサービスを、その生産に要する費用よりもはるかに高い価格で販売できるようになることである。こうした機会を得るために起業家は、何らかの新しい組み立てや組み合わせを実現しようとする。

 ところが、この起業家の行動の芽は、組織のなかで摘まれてしまうことが少なくない。企業内に起業家精神に富んだスタッフがいても、上司にイノベーティブな計画を上申したとたんに却下されることが少なくないのである。

 起業家が実現しようとするのは、「他の人々に知られていない」新しい組み立てや組み合わせであり、思いもよらない展開である。思いもよらない展開である以上、上司が統括する組織上の活動範囲やミッションの枠をはみ出してしまうことが少なくない。ここで上司が、より大きな企業としての課題、すなわち全体として成し遂げるべきことは何かというに立ち返って判断をしてくれればよいのだが、中間管理職に枠をはみ出す判断を求めることは酷である。

 企業のマーケティング担当の中間管理職は、暴走気味の思い切った判断をして、結果がついてこなかったらどうするか、と考えるだろう。組織から責任を問われるのは自分だ。それなら確実な結果が見込める取り組みをはみ出さない方が、リスクは少ない。

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