【水と共生(とも)に】日本一の清流、季節の彩りと洪水対策

仁淀川水系の中津渓谷=高知県仁淀川町(筆者撮影)
仁淀川水系の中津渓谷=高知県仁淀川町(筆者撮影)【拡大】

  • 大渡ダム=高知県仁淀川町(筆者撮影)
  • 大渡ダムに流入してくる大量の流木(筆者撮影)

 仁淀川は、愛媛県と高知県を流れる1級河川で、吉野川、四万十川に次ぐ、四国第3の河川である。流域人口は約11万人、水質は全国1位(2010年、国土交通省調べ)で日本一の清流として知られる。中流域には多目的ダムも多く、水辺利用率も全国一(02年)である。仁淀川と大渡ダムを訪れる機会があったので紹介したい。

 ◆神秘的な“仁淀ブルー”

 仁淀川は、西日本最高峰の石鎚山に源を発する(水源標高1982メートル)。流域の年平均降雨量は約2800ミリで全国平均の1.7倍と高い。全国有数の多雨地帯であり、台風の常襲地帯としても知られている。源流は、愛媛県内では面河川(おもごがわ)と呼ばれ、高知県仁淀川町に入ると仁淀川と名を変え、土佐湾に流入している。

 流域面積は1560平方キロメートル(約95%が山地)で、流路延長は124キロメートル。仁淀川は深いV字型峡谷を形成しながら蛇行を続けている。その両岸の切り立った山々に守られた水質は、比類なき透明度を保ち、その神秘的な色合いは“仁淀ブルー”と呼ばれる。

 10年の国土交通省「全国1級河川の水質現況(1100地点調査)」によると、仁淀川の水質は透明度1メートル以上で、BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)の平均値はともに0.5ミリグラム/リットル以下だ。

 BODは、水中の有機物が微生物によって分解されるときに必要な酸素量。CODは、水中の有機物を酸化剤で酸化するのに消費される酸素の量。いずれも、水が汚れていれば有機物も多く、酸素も多く必要になる。ちなみに、清流として知られている高知県内の四万十川はBOD平均値が0.8ミリグラム/リットル、COD平均値は0.7ミリグラム/リットルである。いずれの河川も環境基準・類型AA(BOD、COD1.0ミリグラム/リットル以下)に該当する清流である。

 仁淀川は、蛇行する水面と河原のカラフルな奇岩、白い砂州、山の緑が織りなす景観が素晴らしく、流域には中津渓谷や安居渓谷など“仁淀ブルー”を体験できるスポットも多い。また、沈下橋が多いことでも知られている。沈下橋とは、洪水時に破壊されないよう欄干を設けていない橋のことである。特に、山々に囲まれた浅尾沈下橋は撮影スポットとして知られている。

 ◆大渡ダムの特徴

 大渡(おおど)ダムは、仁淀川の水資源をより安全に有効利用するためにつくられた重力式コンクリートダムである。洪水調節、灌漑(かんがい)・水道用水、発電などが目的の多目的ダムとして計画され、1968年に着工し、86年に完成した。高知県内の早明浦(さめうら)ダムなど他のダムとの比較を表に示すとともに、概要を紹介する。

 【大渡ダムの緒元】

 ・完成1986年11月

 ・型式 重力式コンクリートダム

 ・堤高96メートル

 ・堤頂長325メートル

 ・集水面積688.9平方キロメートル

 ・総事業費780億円

 【大渡ダムの目的】

 ・洪水調節開始流量2100立方メートル秒

 ・河川維持水量(加田地点)10.3立方メートル秒

 ・吾南用水 最大6.5立方メートル秒、鎌田用水 最大6.8立方メートル秒

 ・上水道(高知市)最大取水量12万立方メートル日

 ・発電 最大出力3万3000キロワット

 ◆気象情報を先取り

 (1)洪水調節

 大渡ダム管理事務所の湯佐昭二所長によると、高知は台風の常襲地帯であるため、特に洪水調節に留意しているという。計画最大流入量6000立方メートル秒のうち、2200立方メートル秒を調節(大渡ダムに貯留)し、ダム放水量を最大3800立方メートル秒に抑えて放流している。最近は巨大台風が多いので、気象情報を先取りし、洪水時の調節容量を設定している。特に予備放流(台風の襲来に備え、ダムに貯留されている水を前もって放流し、必要な洪水調節容量を確保する)の設定には、台風発生時から進路や速度に注意し、四国上陸の恐れが出てきた場合に予備放流を実施している。

 また、洪水時にダムに流入してくる大量の流木の除去、処理に苦労しているという。

 (2)不特定灌漑用水

 仁淀川下流域の灌漑を目的に、江戸時代初期につくられた鎌田用水と吾南用水に対し、大渡ダムから最大13.3立方メートル秒を供給し、耕地面積約2350ヘクタールの灌漑流量を確保している。

 (3)水道用水

 大渡ダムから放流された水は、仁淀川取水所、仁淀川系揚水所を経て、針木浄水場で処理され、高知市内に給水されている。高知市水道ビジョンによると、計画給水人口31万人に対し、計画1日最大給水量は18万3800立方メートルで、針木浄水場は全体の約6割の給水を担っている。

 (4)発電用水

 大渡ダムの取水口からダム下流までの落差(半地下ダム水路式)を利用して発電している。下流に設置されている大渡発電所は、最大45立方メートル秒の導水で最大出力3万3000キロワットの発電を行っている。可能発電電力量は1億2300万キロワット時で、一般家庭約35000世帯分の年間消費電力量に相当する。

 あとがき

 日本一の清流、仁淀川は日本の原風景を今も残している。仁淀川水系は季節ごとに水の色彩も変わり、新緑の時期や紅葉の時期にはさらに川面に色彩が映えるという。“仁淀ブルー”が全国的に知られるようになって多くの家族連れが訪れ、全国トップクラスの水教育の場にもなっている。再度訪れたくなる仁淀川水系である。

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 ■高知県内のダム比較

 (貯水量/集水面積/ダムの高さ)

 早明浦ダム 31,600万立方メートル/417平方キロメートル/106メートル

 魚梁瀬ダム 10,463万立方メートル/100平方キロメートル/115メートル

 大渡ダム 6,600万立方メートル/688.9平方キロメートル/96メートル

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【プロフィル】吉村和就

 よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。