【高論卓説】世界が注視するイラン反政府デモ 全土に拡大、外交方針急転換も

 中東でまた世界を驚かす事件が発生した。昨年末からのイランでの反政府抗議デモがそれである。世界は保守派と改革派の権力闘争や一部不満分子の存在はあるものの、最高指導者ハメネイ師を頂点とするイスラム教聖職者によるイラン支配体制はおおむね国民に支持され盤石とみていた。ところが今回の反政府デモの発生は、国民が生活の改善を実感できない経済状態のみならず、イスラム色が濃厚で閉鎖的な社会・政治の在り方にも強い不満を抱いていることを白日の下にさらすこととなった。

 そもそも今回の反政府デモは、第2の都市マシュハドで12月28日に物価の上昇や高い失業率などに抗議する形で発生した。ロウハニ大統領は2015年1月の欧米諸国との核合意時に、これでイランの経済成長が加速化し生活は良くなると国民に説明していた。

 実際、15年にマイナス1.6%だった経済成長率は翌16年に12.5%へと急伸し、12、13年に3割を超えていたインフレ率も16年には9%へと低下している。

 ただし、期待された投資は欧州諸国がイランにらみを続ける米国の制裁を警戒したこともあり実現していない。このため雇用の創出に必要な産業が思うように発展せず、17年の失業率は12.4%と核合意前年の10.6%から1.8ポイントも上昇し、失業者数も約320万人と高止まりしている。しかも卵を含む基礎商品の価格がここに来て上昇し国民生活を圧迫し始めている。

 注目されるのは、デモ参加者が国民生活を楽にしてほしいとの怒りを込めて当初叫んでいたスローガン「ロウハニ大統領に死を」が、その後、「独裁者に死を」「ガザ、レバノンではなく私の人生はイランのためにある」「われわれのお金はどこに消えたのか?シリアで失われた」「イランで自由なのは何か?窃盗(注:汚職を指す)と専制だ」-など、聖職者の支配する現政権や外交政策を批判する政治色の濃いスローガンに変わったことである。

 他方、今回の反政府デモが短時日に全土に拡大し、スローガンに反イスラム共和国的なものが目立ったためか、指導層の言動は総じて低姿勢で治安部隊の取り締まりぶりも過去と比べ穏やかである。

 ちなみに、ロウハニ大統領が反政府デモに関して初めて口を開いたのは発生4日目の12月31日になってからであった。しかも同大統領は同日以降、反発を買わぬよう配慮するかのよう、国民にはデモを行う権利があると再三にわたり発言している。

 またハメネイ師がウェブサイト上で自らの考えを示したのは、反政府デモ発生から実に6日目の1月2日になってのことであった。この辺りにも当局の慎重な対応ぶりがうかがえる。

 加えて、これまでであれば早い段階で投入された革命防衛隊の出動が明らかにされたのも、デモ発生から7日目の3日になってのことであった。

 今後についてはイラン専門家の間でも「デモが指導者、組織を欠いているので次第に弱まるか鎮圧化される」との短期終結派と、「国民間の激しい経済格差が根本原因なので、デモが大きくなっても驚かない」との長期継続派に見方が分かれている。

 ただし、重い意味を持つのは、反政府デモが下火になったとしても全土で発生したという事実である。果たしてイラン政府、特に革命防衛隊をはじめとする強硬派が、国民の怒りをなだめるため、例えばシリアやレバノン、イエメンでの関与を一時的にでも抑制する政策を取ることになるのか否か注目される。

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【プロフィル】畑中美樹

 はたなか・よしき 慶大経済卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。66歳。東京都出身。