【高論卓説】“クオリティー・オブ・デス”の時代

 ■尊厳支える大事な「終活」ノート

 インドの古代仏教建築を模した築地本願寺(東京都中央区)の本堂は、関東大震災によって焼失した伽藍(がらん)を建築家の伊東忠太が設計、復興した。近くにある聖路加国際病院の旧病棟の十字架がある尖塔(せんとう)とともに、小津安二郎監督の名画に繰り返し映し出される。生と死が通奏低音になっている作品群の象徴のようである。

 築地本願寺を昨年末に訪れたのは、西本願寺(京都)の分院として建立されてから400年を記念して、宗派を問わず合同墓に受け入れるという説明会に参加するためだった。合同墓は、中央に阿弥陀如来像を置いて大理石の回廊がめぐらされている。

 葬儀後に骨壺を持ち込むと、粉上に砕いて一つの包みとして、地下に埋葬される。1柱30万円以上を支払えば、年間の管理費は不要で供養してもらえる。昨秋の募集開始から年末にかけて、約1000人が説明会に来たという。

 日本の年間出生数は2016年に初めて、100万人を割り込んだ。戦後の出生数のピークである1949年の第1次ベビーブームは、269万人だったから約3分の1になった。少子高齢化が、これからさらに加速するのはいうまでもない。ベストセラー「未来の年表」(河合雅司著)によれば、東京五輪の20年には女性の半数が50歳を超え、24年には国民の3人に1人が65歳以上になる。33年には3戸に1戸が空き家となり、39年には大都市を中心として火葬場が不足する。

 団塊の世代が住居を構えた郊外から都心に向かう私鉄に乗れば、車内の壁面を覆う広告の中に、そうした日本社会の未来図に不安を抱く人々の目を引くビジネスがみえる。土地や建物、マンションなどを相続し、「持ち分だけの売却が難しい場合でも、その持ち分だけでも買います」という大手不動産流通会社の子会社や、「都心の立体式の墓 1柱 45万円」という寺院の広告が目に飛び込む。

 「終活」とは、穏やかな終末を迎えるために、生前から準備することをいう。ある週刊誌が命名して、12年の流行語大賞にノミネートされた。

 東北の村に菩提(ぼだい)寺がある私にとって、先祖が眠る墓を今後どうするかなど、「終活」はいつも頭の隅にありながらも具体的に考えてこなかった。九州出身の友人が昨秋に亡くなって、地元に埋葬するかどうか親族は迷った末に、築地本願寺の合同墓を選んだ。それがきっかけとなって、私の「終活ノート」をつづってみる気になったのである。

 「ひとり終活」などの著作で知られる、第一生命経済研究所の小谷みどりさんは、「その時が来たら納得し満足のできる最期を迎えることのできるように支援する-すなわち人間の尊厳ある死を視野に入れた『QOD(クオリティー・オブ・デス)』を高める医療」の重要さも指摘している。本人と家族が、終末期医療の在り方について相談しておく必要がある、という。「終活ノート」の書くべき余白はまだまだ多い。

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【プロフィル】田部康喜

 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。62歳。福島県出身。