主張

がんゲノム医療 リスク見据え保険適用を

 がんにかかった患者のがん細胞の遺伝子変異を調べる「ゲノム医療」が、今年6月から公的医療保険の対象になっている。だが、これだけでは十分でない。

 同じ遺伝子変異を持つ親族がいる可能性があるが、その親族などへの対応が欠けている。

 今は、親族が希望した場合の遺伝子検査も、検査によって変異があると分かった人への詳しい検診や治療も、公的医療保険の対象外だ。これでは早期発見、早期治療につながらない。

 疾病の発症リスクが高いことが明確に分かった場合、安心して検診や治療などを受けられる環境作りが急務である。

 検査は遺伝子変異など患者の個々の違いを踏まえ、それぞれに合ったがんの治療法を探すために行われる。その検査の過程で、子へ伝わる遺伝子変異が見つかる場合がある。患者本人だけでなく、思いがけず、親や子供、兄弟姉妹に同じ変異があるかもしれないことまで分かるのだ。

 代表的なのが、乳がんや卵巣がんの抑制遺伝子「BRCA」の変異だ。米国の人気女優、アンジェリーナ・ジョリーさんを思い出す人もいるだろう。この変異があるとして、がん発症のリスクを下げるため、健康な両乳房を切除する決断をして話題になった。

 BRCAの遺伝子変異がある人の親子や兄弟姉妹に、同じ遺伝子変異がある確率は性別によらず50%だ。変異があると、70歳までに乳がんになる確率は49~57%と高い。男性も、乳がんなどになる確率が高まる。

 専門学会は、この変異がある25歳以上の女性に年1回、乳房のMRI(磁気共鳴画像装置)検査を行うよう推奨している。がんの発症確率が高いと分かっても、検診を充実できれば安心感が高まる。希望するなら、リスク低減の治療もある。検査は本来、対策があるからこそ受ける意味がある。

 対象となる親族が、カウンセリングのできる医療機関で、遺伝子検査や詳しい検診、治療を公的保険で受けられるようにしたい。

 高血圧や喫煙は、今は無症状でもいずれ症状が出る恐れがあるから検査や投薬が保険診療になっている。がんになる確率が明らかに高い人の検診や治療も同じだろう。ゲノム医療という医学の進歩の恩恵を収入の多寡にかかわらず享受できることが望ましい。

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