【論風】積立年金実現の現実策 財源不要の貯蓄制度を

 □上智大学教授・大和田滝惠

 安倍晋三政権発足から5年、個人消費が低調だ。今の経済政策と社会保障制度の枠組みに変更を加えなければ、本格的な経済好循環の鍵を握る個人消費は上向かない。決め手は、政府がどの国民も老後が安心できるほどの積立貯蓄が持てるように、政府代替貯蓄制度を設計することだ。その効果は、国民が自分たちで将来不安のための貯蓄をしなくて済む分、手持ち金を使う気になれるので、人々の消費行動が変わり、誰にも実感の伴った経済回復を実現できる。

 ◆消費税制の活用で突破口

 そんな制度はどうやって設計できるのか。給付政策の財源が逼迫(ひっぱく)しているため、経済成長をもたらし、その税収増で給付財源を確保できなければいけない。個人消費は国民全体が関与しなければ持ち上がらないので、全員参加の消費税制を活用し、実際は消費税収を財源に使わないが消費税を支払った個人に還元する形を作って個人消費を喚起できるようにする。

 低所得および低消費の国民には支払った以上の老後の安心が得られる増額還付を実施し、消費税の逆進性を是正した公平な再分配に配慮しながら、各人が買い物して支払った消費税を政府が代わって積立貯蓄をしていき、現行年金の受給時に上乗せ還付する消費税積立貯蓄制度を提唱したい(国民平均5%分を積立貯蓄)。これまで実現が難しかった積立方式の年金制度に代わる積立貯蓄制度を財源なしで、現行の年金制度に付け加えることになる。

 ただし、この制度は消費行動に応じた還付制度なので、単なる給付政策よりぶら下がらない国民性を維持でき、人々は勤労意欲を高めて消費を拡大しようとする。制度の導入による消費喚起は少なくとも、国民平均で100円の買い物を101円か102円へと、最低限1~2%増やす個人消費のベースアップが起きる。全国民的に個人消費が動き出すと、業界全体に売り上げの見通しが立ち、持続的な賃上げを含む本格的な経済回復の好循環が始まる。この制度で確実な消費喚起と税収増が実現可能なことは以下のごとく立証できる。

 ◆消費喚起の確実性

 単なる減税や給付金では将来不安はなくならず、国民の財布の紐が緩むことはなく、消費喚起につながらない。賃上げだけでなく、国民全員が積立貯蓄を持てること、その累積貯蓄金額が数千万円になることで、将来不安が緩和し、タンス預金や普通預金など手持ち金(国民の普通預金保有率は96%台)を少し多めに使えるようになる。

 政府が国民一人一人に代替貯蓄する分、国民の手持ち金は常時、即時減税されているのと同じことで、日々の可処分所得が増えたことになる。そして買い物をすると、積立貯蓄が毎日たまっていくのが意識でき、自分に大きな累積金額が積み立てられていく楽しみによって、買い物が楽しくなる。そのため、圧倒的多数の国民の財布のひもは緩む。日々、スーパーやデパートなどの、その場で5%ずつたまっていくので、その都度5%のうち1~2%は余分に追加消費されるという消費喚起の即効性が見られることになる。

 消費喚起の持続性はどうだろうか。この制度を導入することで、積立貯蓄が生涯増え続けることと、お金を使えるようになる中間層を中心に個人消費が動き出して経済全体が上向き、賃上げされる勤労者が増え賃上げ幅も広がるため、国民の手持ち金は持続的に増えていく。しかも、消費税分プラス金利1.5%以上の複利で積立貯蓄されていく制度設計にするため、国民一人一人が絶えず少額積立投資を行い続けていることになる。

 それは低金利下で人々にとって「お得感」が生涯続くわけなので、支払い能力の拡大に応じて生活水準向上意識から、少し多めの、ワンランク上の買い物を持続させることになる。その結果、制度起因の追加GDP・国税全体の税収増が毎年0.5~1%逓増し、還付財源を賄って余りが出る。

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【プロフィル】大和田滝惠

 おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDOグリーンヘルメット調査報告委員会座長などを歴任。著書に『文明危機の思想基盤』、経済論文に「ヴィジブルな社会への経済政策」など多数。専門は社会哲学。66歳。東京都出身。