海外情勢

「米フェニックスの中国版」自称する武漢、不衛生さに抗議も…優先される“野心”

 中国内陸部に位置し、テクノロジーの中心地として「米フェニックスの中国版」を自称してきた湖北省の武漢市が今、新型コロナウイルス感染拡大の震源地となっている。北京や上海など巨大都市ではなく、若者が多くその分、健康とも考えられる労働力を誇ってきた武漢市から新型肺炎が広がっていったのはなぜか。

 武漢市にはそもそも武漢戸籍を持たない住民も多い。同市には国内名門工科大学の一角に数えられる華中科技大学がある。市の人口全体に占める大学生の比率は約9%と、北京や上海の3%水準を大きく上回る。武漢市の人口は2018年時点で1100万人超に上るものの、永住者は880万人にとどまっている。

 結果として、春節(旧正月)の連休に合わせて帰省する武漢住民は多くなる。昨年の春節では、新型コロナウイルスの発生源とされる海鮮市場からわずか1キロメートルの距離にある鉄道の主要駅を550万人が利用した。

 中国は1月23日、武漢発の鉄道と航空便全ての路線を停止すると発表したが、多くの人々は既に移動を済ませていた可能性がある。例えば、華中科技大の冬休みは1月9日から始まっている。

 武漢は深センの代替地として評価を着実に高めてきた。武漢市は最新の5カ年計画で、公立校教育などソーシャルサービスを受ける権利が得られる「グリーンカード」に相当する戸籍制度の緩和を通じ、100万人の大卒者を引き留める目標を掲げた。

 武漢の空港は16年に約2100万人が利用。新ターミナルの対応能力は年間3500万人だ。中国社会は重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した03年に比べ、はるかに移動が容易になっている。

 だが、労働者の大移動に責任があるわけではない。武漢の財政支出をみれば分かる。テクノロジー研究などに資金が重点配分される一方、公衆衛生への支出は停滞気味。昨年6月には武漢の住民が海鮮市場の不衛生さに関して抗議していたが、当局が対応することはなかった。北京や上海も移住者が多いが、いずれも公衆衛生への支出を増やしている。

 確かに、景気減速の中で地方政府の財政事情は厳しい。昨年は大型減税もあってなおさらだ。それだけに、官僚としては半導体設計と公衆衛生への資金投入の間で難しい判断を迫られる。半導体設計は習近平国家主席のハイテク産業育成策「中国製造2025」に貢献する一方、公衆衛生の充実は「ブラックスワン」シナリオを最小限に抑えられる。

 残念ながら、地方の役人は中国製造業をめぐる野心を優先する誘惑に駆られる。さらに、中国の人々は何世紀にもわたって珍しい動物の肉も好んで食べてきた。過去を変えるよりも、将来に向かってプランを練る方がはるかに容易だ。

 なぜ今さら生鮮市場の衛生状況をわれわれが心配しなければならないのか。このメンタリティーが変わらない限り、今後も新型ウイルス発生を見込まざるを得ない。(ブルームバーグ Shuli Ren)

 (著者はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。この記事は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus