高論卓説

危険な中国「戦狼外交」 国家主席は軍と国民を制御できるのか

 米アラスカで3月18日に開催された米中外相会談は、冒頭から激しい応酬で始まった。アントニー・ブリンケン米国務長官は、この会談では新疆ウイグル自治区、チベット、香港における中国の人権侵害のほか、サイバー攻撃、台湾への圧力に対する懸念、米国の同盟国への経済的な威圧などを取り上げると表明した。

 すると中国の王毅外相は、米政府は圧倒的な軍事力と経済力によって諸外国を抑圧していると反論。楊潔●・中国共産党中央政治局委員(●=簾の广を厂に、兼を虎に)は米国こそ人権侵害が最悪の状態にあり、黒人が次々に殺されていると述べた。

 2分ずつを予定していた冒頭のスピーチは結局非難の応酬となり1時間以上続くことになった。外交使節がこうして大げさな言動をするのは多くの場合、自国民へのアピールだろう。

 中国は大国となったと自覚し、それにふさわしい名誉を望んだ。このやり取りを知って、最初に浮かんだイメージは、日本の戦前の外交官であり政治家でもある松岡洋右の1933年2月のジュネーブにおける国際連盟総会での演説であった。

 このとき、日本はリットン報告書をベースにした満洲に関する国際連盟の勧告を受け入れなかった。勧告の採決は賛成42票、反対は日本の1票(棄権が1票)だけ。松岡は堂々と演説し、議場を立ち去った。松岡は日本が脱退しないよう、つまり国際社会から孤立しないように努力したのだが、力足らずそれがかなわなかったことを悔やんだ。

 ところが、いざ帰国してみるとメディアや国民からは「ジュネーブの英雄」として、まるで凱旋(がいせん)将軍のように大歓迎されたのだった。その後の日本は国際社会から孤立していき、ファシズムの国家のメンバーとなる。

 今回のアラスカ会談と昔のジュネーブでの総会の内容が似ていると言いたいわけではない。外交とはつくづく内政の延長であると思ったのだ。

 中国は2月、海警局(日本の海上保安庁に相当)を準軍事組織に位置付け、外国船舶に対して武器使用を認める「海警法」を施行した。中国は台湾周辺海域での圧力を強め、現実に軍事衝突の懸念は強まっている。

 また、3月9日の米インド太平洋軍のデービッドソン司令官による議会証言では「中国が一方的に現状変更を試みるリスクは高まっている」と懸念を示し、新任のアキリーノ太平洋艦隊司令官も中国は6年以内に軍事行動を起こす可能性があると警鐘を鳴らしている、

 私は2017年に第一次世界大戦の本を書いたが、約1世紀前の当時も一部の野心的な政治家や軍人以外は戦争が起こるなどとは考えていなかった。理由は、(1)経済的なメリットがない(2)不安定な政府は戦争を避ける(3)伝統的な外交で回避が可能(4)どんな戦争もすぐに終わる-などだ。

 当時、覇権国家の英国に挑戦し、軍備を増強していたドイツの皇帝ウィルヘルム2世でさえ、戦争勃発の危機が迫ると、ロシア皇帝ニコライ2世に戦争を避けるように求めた。しかしそのとき、軍は予定通りに作戦を遂行し、国民は歓喜の声をあげて戦場へと向かったのである。

 中国は好戦的な「戦狼外交」を推し進め、習近平国家主席への人格崇拝をエスカレートしている。何らかのボタンの掛け違いで本当に切迫した危機が訪れたとき、国家主席にそれを押しとどめるだけの力が残されているのだろうか。

 情報統制と国民に対する勇ましい言葉は、いつか自身に対する刃となりかねない。

【プロフィル】板谷敏彦(いたや・としひこ) 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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