デジタル社会の未来

(下)視力代替、盲導スーツケース

 夢は「自由に簡単に1人で街歩き」

 「ANAのカウンターまで行って」。スーツケースの取っ手を握りしめスマートフォンに話し掛けると、車輪が自動で回り始めた。人工知能(AI)を搭載した視覚障害者の移動を手助けする「AIスーツケース」。盲導犬の代わりに目的地まで連れて行ってくれる世界初のロボットだ。

 異業種4社タッグ

 AIスーツケースには、開発した日本IBMやアルプスアルパインなど4社の最先端技術が詰まっている。画像認識はオムロン、清水建設は設計で協力。異業種がタッグを組んだ。

 複数のレーザーセンサーが周囲を360度認識し、障害物や歩行者までの距離を測定する。スマホから音声で情報を伝えてくれたり、連動して取っ手部分の側面が振動し進行方向を教えてくれたりする。

 「前方に自動ドアがあります」。音声が流れると車輪は自動で一時停止する。人が前方を横切ると「複数の人をよけます」と音声が流れ、車輪が進行方向を変え、取っ手部分の左右が振動して誘導してくれる。

 将来は顔認証システムで近くにいる友人をリアルタイムで判別することも検討している。

 プロジェクトを立ち上げたのはIBMフェローで全盲の技術者、浅川智恵子さん(62)。日本科学未来館の館長を務める。小学生の時、プールで泳いでいて壁に頭をぶつけ視力を失った。その後は家族に教科書を読み上げてもらい勉強を続けた。

 大学卒業後、コンピューターを学び世界初となる英語を点字に翻訳するシステムを開発。日本IBMに入社してからはホームページの文字を音声で読み上げるシステムも作り上げた。

 200メートル 大きな一歩

 しかし外出するときは白いつえをつき、盲導犬を伴う。障害物の場所も友人の顔も分からない。「視覚障害者だって自由に簡単に1人で街歩きしたい」。テクノロジーなら不可能を可能に変えられると信じている。

 昨年11月、東京メトロ東西線の東陽町駅で、ホームから視覚障害のある男性が転落し死亡した。浅川さんは同様の事故が後を絶たないことに心を痛めている。

 AIスーツケースは目的地のANAのカウンターに無事到着した。歩いた距離約200メートル、約5分かかったが大きな一歩だ。「失われた視力の代わりにAIが私を導いてくれる。まるで私の体の一部のよう」。1人で自由に街歩きする夢をかなえるまで全盲のエンジニアの挑戦は続く。

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