高論卓説

日銀ETFの禍根は早く断つべし

 ゾンビ温存、有望企業の成長損なう

 日本銀行が上場投資信託(ETF)の買い入れを始めてから11年目を迎えた。日銀が保有するETFの残高は36兆円余(簿価、4月30日現在)に膨らんだ。時価で評価すると推定50兆円前後。東証1部上場銘柄の時価総額719兆円余(5月6日現在)の約7%を占める。

 日銀は3月の金融緩和の「点検」で、ETF買い入れ枠の原則年6兆円を削除し、上限の年12兆円を残した。買い入れ対象は東証株価指数(TOPIX)連動型に限り、日経平均株価連動型を外した。何のことはない。今後もETFを買い続けるとの意思表示だ。「出口戦略」は遠のくばかりである。

 証券恐慌の様相を帯びた昭和40年(1965年)の証券不況期、2つの株式買い入れ機関が発足した。銀行、証券会社などの出資で設立された日本共同証券と日本証券保有組合だ。両機関は日銀などからの融資で市場にあふれかえる株式を買った。相場の回復にメドが立つと、保有株式を放出して解散した。「非常時にのみ許された例外的形態」の枠組みを守った。発足から解散までの期間は日本共同証券が7年、日本証券保有組合は4年だった。

 しかるに、日銀のETF買いはである。既に10年を超えた。このままでは15年、20年に延びかねない。日経平均が1万円台を回復し、2万円台に乗せ、一時的とはいえ3万円台に切り上がっても日銀のETF買いが止まることはなかった。「状況がいかに変化しようとも、敷かれたレールの上を突っ走るのが日本海軍の奇妙な流儀であり特徴なのである」(半藤一利著『真珠湾の日』文春文庫)。日銀のETF買いは旧日本海軍の奇妙な流儀が亡霊のように乗り移ったかのように映る。最近でこそ買い入れ回数と購入額は減ったが、止まることはない。

 日銀のETF買いの効用は相場水準の引き上げだった。内外のエコノミスト、アナリストらの間では、日銀のETF買いで日経平均株価は3000~4000円かさ上げされたとの見方が専らだ。「株価連動内閣」とも呼ばれた安倍晋三前首相のアベノミクス政策を支えた最大の功労者だったともいえる。

 半面、副作用も大きくなってきた。相場が大きく下がると、日銀が大量のETF買いに走ることが繰り返されたため、相場は下方硬直性を強めた。本来の躍動感が失われた。間接保有ながら日銀が実質的に上位10位内の大株主になっている企業は東証1部上場企業の過半になったとの試算もある。

 日銀の持ち株比率が10%を超えた企業も少なくない。議決権を行使しない大株主の存在はコーポレートガバナンス(企業統治)を脆弱(ぜいじゃく)化させる。

 TOPIX連動型EFTの購入は“玉”と“石”が混在する銘柄群のまとめ買いを意味する。個々の企業の経営内容、成長性などを調べることから始める投資の基本から外れる。役割を終えた“ゾンビ企業”の温存を許す。「成長企業を発掘し、優劣を判定する」「有望企業に長期資金を供給し、日本経済の成長を促す」といった株式市場が持つ枢要な機能を損なう。

 日銀のETF買いは市場への過剰介入の域に達した。ETF保有残高が膨らむほど株式市場の禍根となる。禍根は早く断つべきだ。中央銀行による下値支えは市場の過保護でもある。自律性ある独り立ち市場に復するには、日銀のETF買いの出口戦略の具体化が欠かせない。

【プロフィル】加藤隆一

 かとう・りゅういち 経済ジャーナリスト。早大卒。日本経済新聞記者、日経QUICKニュース編集委員などを経て2010年からフリー。東京都出身。

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