メーカー

カメラ業界に地殻変動 プロ用主戦場もミラーレス

 カメラ業界でプロカメラマン向け機種をめぐり地殻変動が進んでいる。主にアマチュア向けとされてきた小型・軽量の「ミラーレスカメラ」の技術革新が急速に進展。メーカー各社にプロのミラーレス使用を意識した商品戦略を迫る。プロの使用機材はカメラ愛好家の注目度も高い。“晴れ舞台”でもある東京五輪・パラリンピックは新型コロナウイルス禍で開催に不透明感も出ているが、各社は五輪後の市場もにらみ、つばぜり合いを展開する。

 「今後、開発の比重をミラーレスに移していく」。カメラ大手キヤノンの戸倉剛常務執行役員は、プロ向けカメラにおける事業戦略の方向性を語る。

 その言葉を裏付けるようにキヤノンは4月14日、プロ使用に対応するミラーレス「EOS R3」を開発中と発表。東京五輪が開催されるなら残り100日というタイミングでの公表について、戸倉氏は「準備を進めているというメッセージだ」と声に力を込める。

 プロ向けカメラ市場でキヤノンとシェアを二分してきたニコンも3月、プロ向けのミラーレス「Z9」について、今年中の発売を目指すと予告した。ニコンの大石啓二UX企画部長は「ミラーレスでも一眼レフに負けないものを出す」と、今後はミラーレスの旗艦モデル開発を加速させる方針を示す。

 五輪延期後に変化

 こうした動きの背景には、昨年7月に開催予定だった東京五輪が延期されて以降、「プロ現場でのミラーレス需要が急速に高まっている」(プロカメラマン)ことがある。

 ミラーレスは被写体の像を直接見せる反射鏡がない構造のため、機体を小型・軽量化でき、振動が少なくシャッター音も静かだ。音に厳しいゴルフの試合などは、一眼レフでの撮影はできなくてもミラーレスは撮影が可能で、プロカメラマンのミラーレス使用が徐々に浸透している。

 それでも昨年の東京五輪延期まで「フラッグシップ」と呼べるような純粋なプロ向けの機種は未発表だったが、ソニーがミラーレスのフラッグシップ機「α(アルファ)1」を発売したことで風向きが変化した。新開発のセンサーで高画素と高速撮影を両立させ、「使い勝手も含めてプロが使う道具に仕上がった」(カメラ事業部の大島正昭副事業部長)。

 調査会社BCNの道越一郎チーフエグゼクティブアナリストは「この1年でミラーレスは性能面ではプロの現場で使える水準になった。『プロなら一眼レフ』といった固定観念も薄れており、メーカー各社はプロのミラーレス使用を意識せざるを得ない段階になった」と分析する。

 カメラメーカーは五輪を「技術力をアピールし、存在感を高める舞台」(キヤノン)と位置付ける。テレビ中継では選手や競技だけでなく、シャッターチャンスを狙うプロカメラマンの姿も映し出される。プロがどの機材を使っているかは愛好家の関心事で、下位機種まで含めた全体の売り上げに直結するとされる。

 キヤノンとニコンは五輪ごとに毎回フラッグシップ機を投入、シェア争いを繰り広げた。望遠レンズの外装色はキヤノンが白、ニコンが黒であることから「白黒対決」と呼ばれ、東京五輪もキヤノンが「EOS-1D X MarkIII」、ニコンが「D6」を発表していた。

 加えてカメラ市場が落ち込む中、メーカー各社は東京五輪を反転攻勢のきっかけとして期待する。

 カメラ映像機器工業会によると、デジタルカメラの総出荷金額は近年、右肩下がりで、新型コロナウイルス禍での昨年は約4201億円と前年から約3割も落ち込んでいる。外出機会の減少やイベントの中止・延期などでカメラの使用機会が激減したことに加え、スマートフォンカメラの画質向上も大きい。

 一方、スマートフォンとSNSの普及により、日常的に写真を楽しむ層は増えているとの見方もある。BCNの道越氏は「広がったカメラ人口の裾野を、どうカメラ購入につなげるか、メーカーは正念場を迎えている」と強調する。

 それだけにメーカー各社は、東京五輪の開催自体が危ぶまれる現状に気をもむ。無観客でも開催されれば、報道カメラマンには一定の取材が許されるとみられるが、中止や再延期となれば、期待する市場の盛り上がりに水を差される懸念もある。

 「信頼獲得」が課題

 黎明(れいめい)期を迎えたプロ向けミラーレス市場。今後の課題は「プロからの信頼獲得」だ。

 画像や動画の提供事業を手掛けるアフロ代表で写真家の青木紘二氏は「失敗の許されないプロにとって、カメラを選ぶ一番のポイントは信頼性だ」とし、現段階では従来の一眼レフを使うプロも少なくないとみる一方、「画面の端でもピントを合わせられるなど、ミラーレスならではの利点もある」とし、今後はプロの実戦投入が進むとみる。

 各メーカーは、ライバルの動向をにらみつつ、“次”を見据える。

 キヤノンは開発中と公表した「R3」について、「一部のプロにテスト向けで貸し出すことも検討」しており、プロのフィードバックを貪欲に吸収する。また東京五輪が開催されればゴールドパートナーとしての強みを生かし、会場での手厚いサポートによりプロとの信頼関係を強固にしたい考えだ。

 ニコンは中・高級機の商品開発を進め、対応する超望遠レンズの発売を予定する。新型コロナ後も、競技場やイベント会場に入場できるカメラマンの人数が絞られる事態を視野に、一人のカメラマンが別アングルでも撮影できるシステムの開発に磨きをかける。

 ソニーは静止画だけでなく動画撮影などにもミラーレスが活用されている親和性に着目。スマホをモニターとして活用するなど、ソニーブランド全体で映像クリエーター向けのミラーレスニーズを掘り起こす。ソニーの大島氏は「ミラーレスの世界を広げることで、業界全体を盛り上げたい」と話す。(佐久間修志)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus