高論卓説

ジョブズも注目した「禅」 日本文化の根幹、教えは未来への戦略に

 国際的な禅の巨人「鈴木大拙」の「禅と日本文化」に、こんな一節がある。「禅宗が日本人の性格を築き上げる上にきわめて重要な役割を勤めた」。そして、「禅は国民の文化生活のあらゆる層のなかへ深くおよんでいる」と。大拙が唱える禅の教えは、海外向けに書いたものでとにかく興味深い。(吉田就彦)

 禅は体験的であり、科学は非体験的であるとしながらも、日本の文明開化を開いた西洋人から常に熱いまなざしを得て、特にスティーブ・ジョブズ(米アップル共同創業者)に代表される経営トップからもてはやされてきたのが日本文化の根幹をなす禅である。私はこれまでも日本の未来は日本文化をベースに世界から尊敬され、存在感を示し、貢献していくことが重要との論を張ってきた。

 その日本文化の根っこのようなものが禅だと大拙は言う。改めて、大拙いわくの「禅はわれわれのうちに眠っている般若(智慧)をめざまそうとする」との観点から、これから日本がとるべき戦略をなぞってみたい。

 第1に日本文化の本質である「引き算の美学」だ。東洋的な絵画美に中国の一角様式に端を発する減筆体という絵の手法がある。その特徴はまさに引き算。無駄なものを廃し、想像を書きたてる描き方にこそ現れる、深く、深遠な美の世界だ。シンプルなところにさまざまなものが含まれ、想像させ、それが魅力につながる。

 デジタル機器が主流になってから、一台何役のような便利な機械だらけの昨今。あえて無駄なものは全てそぎ落として、飽きない、使えば使うほど愛着が出るようなプロダクトをまた日本発で見てみたい。

 プロダクトだけでなく、マニュアルにとらわれずその使い方の工夫ができるという意味でも、便利さだけを追求するのではなくシンプルなプロダクトを工夫して豊かにする日本の知恵を社会のあらゆる局面で意識すべきだ。当然、教育はその最前線だ。

 第2に「結論を求めない美学」。とかく西洋的なMBA(経営学修士)に毒されがちな日本の管理職。360度評価や到達目標設定と数字だけに振り回されている感がある。もちろん、会社経営を考えるとき最も分かりやすい指標の一つが数字であるが、これの盲点は、100点を目指し、それが到達したら終わりということだ。それ以上でも以下でもない。成功できればいいが、ともすると自己否定につながったり、他との協調を無視したりするしかなくなる。しかもそこで出てしまった結論は、その時点で完璧であっても、時代とともに社会の中で生かしていけないことも多々ある。その目標だけに対しての最適化が災いすることもある。

 禅は精神に焦点をおく結果、形式を無視し、体験を貴ぶ。

 第3に「自然と生きる美学」。最も西洋的な考え方から遠く、特に禅の特徴が強く出る考え方が自然との関係だろう。西洋は自然を使うものとしてとらえ、東洋は自然の一員として人間をとらえる。大拙は、「一切の人工による形式を破り、その背後に横たわるものを確実に把握しようという禅の心的習慣は、日本人が土を忘れず、いつも自然と親しみ、飾り気のない単純性を味わうことを助けてきた」という。それが自然とのかかわりを上手に行ってきた日本文化の特徴を生む。

 これらの世界文化の中での日本文化の特質と可能性にわれわれはもっと自信と誇りを持つべきだ。それがこれからの日本が世界に必要とされる存在意義となる。

【プロフィル】吉田就彦 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。

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