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「コロナ禍だからゴメン」とリストラする経営者にSDGsバッジをつける資格はない (3/3ページ)

 年功的賃金制度は、若いときは働きぶりに対して低い賃金を支払い、その分を40代以降に支払う(賃金の後払い)という構造になっている。しかしそれが機能しなくなった結果が高額給与者の中高年の削減というリストラだ。

 そうしないためには(1)のように若いときからスキルと成果に基づいた賃金を支払い、年齢に関係のない昇格・昇進を行う。同時に会社が求めるスキルレベルに達しない、成果を出せない場合は降格や管理職から降りてもらう仕組みを構築するべきだろう。

 スキル・成果と賃金が一致していれば仮にリストラする場合、ターゲットが中高年になることは少ないだろう。逆に一定のスキルレベルに達するのに時間を要する若い世代がターゲットになりやすいともいえる。

 欧米企業には後から雇った人が先に解雇されるという原則

 ちなみに欧米企業には「先任権」(セニョリティ)と呼ぶ、後から雇い入れられた人が先に解雇されるという原則がある。アメリカでもフォードなどの自動車メーカーのレイオフでは労働組合と結んだ労働協約で先任権原則が適用されている。後から雇い入れられた若い人も対象になることによって、労働市場が脆弱(ぜいじゃく)な日本で中高年だけがリストラされて路頭に迷うという悲劇を回避できる。

 スキル・成果と賃金の一致を十全に機能させるには(2)の厳格な人事評価制度の確立が不可欠だ。企業によっては上司が部下を厳しく評価するのを嫌がり、5段階評価(S、A、B、C、D)の真ん中のB評価をつけてしまう“中心化”傾向が蔓延しているところがある。

 一般的にリストラの際に「辞めてほしい」人は人事評価がベースになるが、評価が低い社員が少なければB評価もターゲットにされる。

 ところが本人は「B評価で会社に貢献しているのになぜ俺が辞めなければいけないのか」とショックを受ける。上司がよかれと思ってつけた評価があだとなり、結果的に「今のままではリストラされるかもしれない」という予見可能性を失わせてしまうのだ。

 そのためにも厳格な人事評価制度を確立し、「あなたの今の働きぶりが続けば降格され、給与が下がりますよ」と、イエローカードを突きつけ、緊張感を持たせることで仕事への奮起を促すことが重要だ。

 企業の人材育成やスキル教育の多くは自社の業務を習熟させるために行うのが一般的だ。しかし自社のみに通じる特殊スキルに焦点が当てられ、(3)のように他社でも活用できる普遍的スキルの修得には無頓着だった。その揚げ句に会社を退出させるのは、泳げない社員を大海に放り出すようなものである。

 たとえば大企業の人事部員は一定の人事業務には精通していても、同じ管理部門の経理・財務に通じている人は少ない。人事の仕事以外に財務・経理や総務の仕事も知っていれば、拾ってくれる企業はいくらでもある。

 そのためにも若いときから個人としてどういうキャリアを築きたいのかを自ら考えさせ、それに向けたスキルや知識の修得を支援するプログラムを用意し、「キャリア自立」を促すことが重要だ。

 会社の寿命は20年と言われるが、仮に倒産しても社員が路頭に迷わずに外でも“泳げる”スキルを提供することはCSR(企業の社会的責任)の観点からも企業の責務であるべきだ。

 会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば“不幸”は生まれない

 企業が生き残るためには業態の転換や新規事業への進出は避けられない。だからといって古いスキルを持つ人材を外に放出するのは経営者の責任放棄である。

 (4)のように新規事業に必要なスキルを修得させる職種転換研修を実施し、活躍の場を提供していくべきだろう。それでも「今の年齢で新しいスキルを覚えるのはきつい」と言う社員もいるだろう。そんな人を使ってくれる部署やグループ企業があれば再配置すればよいが、それでも難しい場合は、緊急避難的なリストラの希望退職者募集ではなく常設の「早期退職優遇制度」によって自発的に応募できる仕組みを用意しておくことも必要だ。

 この仕組みの効用について建設関連会社の人事部長はこう語る。

 「一時的に大量の社員を退職させる希望退職はリスクが大きい。引き留めても優秀社員の流出は避けられないし、残った社員のモチベーションも悪化させる。対象になった社員も『半年以内に辞めるか、辞めないか決めろ』と言われても困る。恒常的な早期退職優遇制度があれば、辞めたいと思ったときに辞められる。実際に在籍中に転職の準備をして転職する人もいれば、長年計画していた起業にチャレンジする人もいる。あるいは故郷に戻って知人の会社で働くという人もいる」

 会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば、個々の社員が人生の生き方を自ら選択するきっかけにもなるだろう。

 じつは1990年代のリストラでは、希望退職募集を実施する前に、グループ会社や関連会社にお願いし、転籍出向先を探すのが一般的だった。当時の人事部員は極力解雇する人を少なくするために駆け回ったものだが、そのグループ会社や関連会社も引き取る余裕がなくなり、いつの間にかそういうこともしなくなった。

 社員を放り出す経営者にSDGsのバッジをつける資格はない

 一方、コロナ禍で「雇用シェア」という新しい動きも出ている。人員過剰な企業の社員を人手不足の企業に一時的にレンタルする「在籍出向」が中心であるが、メディアでもJALやANAの雇用シェアが注目を浴びている。

 じつは取材してわかったことは、異業種への出向ということで、当初はノウハウもなく企業間のマッチングが難しいことだった。

 しかし、徐々にノウハウが蓄積されつつあり、政府系の産業雇用安定センターを中心に民間の人材サービス会社も雇用シェアに乗り出している。

 このノウハウは当然「転籍出向」にも活かせるはずだ。やむをえず離職を余儀なくされる社員が発生した場合、転籍出向という形で新しい企業で1年間働き、そこでの給与を出向元が6割支払い、2年目に転籍する。これによって失業なき労働移動を実現する道もあるのではないか。

 以上がこれまでのリストラの歴史を振り返ったとき、筆者が考える「不幸を生まないリストラ」の5カ条だ。

 リストラしないことに越したことはないが、少なくともこのすべてをやりきることが企業に今、求められているのではないか。

 ブームとなっている企業に社会的役割を求める国連のSDGs(持続可能な開発目標)の8番目は「すべての人のための生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進」を目指すことである。

 突然、社員を放り出すような企業の経営者にSDGsのバッジをつける資格はないだろう。

 溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

 人事ジャーナリスト

 1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

 (人事ジャーナリスト 溝上 憲文)(PRESIDENT Online)

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