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「その規模、企業ではなく国家」アリババが中国版アマゾンの枠をぶち壊せたワケ (2/3ページ)

 アリババが始めた小売革命

 世界最大級のオンライン小売業者であるアリババが、実店舗を「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」の重要な要素だと主張していること自体、何やら狐につままれたような気がしないでもない。

 アリババは、実店舗として2つの小売りチェーンを運営している。1つが食料品チェーンの「盒馬鮮生(Hema Fresh)」、もう1つは2017年に買収して傘下に収めた「銀泰百貨(Intime Department Store)」という高級百貨店チェーンである。

 現在、「盒馬鮮生」は約200店を展開しており、地域のニーズに合わせて数種類の業態がある。そのなかのひとつで主に朝食・飲料を扱う「Pick'n Go」という店舗は、その名のとおり、商品をピックアップするだけのテイクアウト専門店で、注文や支払いはオンラインで済ませる。

 注文は盒馬鮮生の専用アプリで済ませ、あとは店舗にあるコインロッカー風のデジタル保温ロッカーでスマホをかざして注文品を取り出すだけだ。

 インターフェイスとしてのリアル店舗の役割

 次に、中国国内33都市に約60店舗を展開する百貨店チェーン「銀泰百貨」では、実店舗による小売り事業強化に乗り出した。銀泰百貨の陳暁東CEOに聞いたところ、アリババの営業戦略では、銀泰百貨の経営権を取得した当初は、徹底したネットワーク化の推進に明け暮れたという。

 つまり、店内にある全商品をデジタルデータ化することだった。ユーザーの目に触れる画面デザインなどフロントエンドと、サーバーなどのバックエンドの両方の全システムの統合も不可欠だった。

 この結果、銀泰百貨ではさまざまなかたちでショッピングが楽しめるようになった、と陳は胸を張る。たとえば、銀泰百貨のアプリから、最寄り店舗にある商品を購入することも可能だ。わからないことがあれば、その場で銀泰百貨の販売員に直接問い合わせることもできる。

 あるいは、実店舗内で買い物をしていて、重い荷物を持って帰るのが億劫だと思ったら、店内にいてもアプリのオンラインカートに商品を放り込んでいけばいい。アプリ上で支払いを済ませ、わずか2時間後には購入品が自宅に届く。

 デジタル時代のニューリテールモデルを提唱

 陳は「従来の小売りは、一方通行のシステムで店から顧客に情報を送りつけるだけでした。しかし、当社の『ニューリテールモデル』では、店と顧客の双方向コミュニケーションに対応しています」と説明する。

 アリババの幹部と話していると、刺激的であると同時に少々無邪気ささえも感じる瞬間がある。みな、あらゆる部分に商機を見出そうとしているのだ。同社幹部にとって、伝統的なシステムや旧態依然としたパラダイムの制約など、なきに等しいのである。

 アリババというブランドにしても、アリババが採用しているプラットフォームや技術、エコシステムにしても、温めた陶土のように自由自在に形を変えられるから、顧客が喜んでくれる形に成形しやすい。顧客の1つひとつの行動、システム、技術、販売機会のすべてが、「ニューリテール」というコンセプトの枠組みにきれいに収まっているのである。

 オムニチャネルとニューリテールの違い

 「今、小売りは、チャネルやECという切り口から、『エコシステムと生活域』という切り口へと軸足を移しつつある」と中国のEC事情に詳しい小売コンサルタントのマイケル・ザッコアは言う。自然界なら、生態系があって、その中で生物がそれぞれ生息域を持つように、小売りの世界も、エコシステムの中で消費者が生活域で暮らすという発想だ。

 このエコシステムと生活域が切り口になったのは、小売業者と顧客の関係を抜本的に見直した結果だ。その違いを理解するにはどうすればいいのか。

 ザッコアによれば、オムニチャネルの世界では、企業が自らを中心に置き、顧客との関係を築くパイプとしてチャネルを用意していた。オムニチャネルは、こうしたさまざまなチャネルをつなぎ合わせて、親和性、一貫性、連続性を高めるということしか言っていない。問題は、その企業が依然として中心に居座っていることなのだ。

 一方、ニューリテールは、業態や体験、プラットフォームが完全に一体化されたエコシステムがあり、その中心を生活域にする顧客がいる。このエコシステム自体、ショッピングやエンターテインメントからソーシャルネットワーキング、決済に至るまで消費者が利用する体験をまるごと包み込んだ一種の安全圏であり、言い換えれば生活域である。

 顧客がエコシステムにいる限り、ブランド側からは(データを活用して)顧客に利便性やカスタマイズ性を提供することと、顧客からの声や反応をいかに取り込むかに重きが置かれる。フィードバックのループが回り出せば、顧客からブランド側に重要な情報が届き、これを基にブランドは価値ある訴求が可能になるため、ますます顧客にとって価値は高まる。

 ザッコアによれば、アリババのエコシステムには、前述した「タオバオ」「Tモール」「Tモール内ラグジュアリーパビリオン」、アントグループ(同社の金融子会社)など、いろいろな「生活域」が用意されている。顧客は、こうした生活域のいずれかに入って行動し、テクノロジーのおかげで生活域間を自由自在に渡り歩くことができる。実際、ニューリテール志向のブランドは、販路という発想さえないという。

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