リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

聖路加国際病院 石松伸一院長(1)「一期一会」大切に患者と接する (1/2ページ)

 1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件で、聖路加国際病院(東京都中央区)は「救急患者を断らない」病院との評判が定着した。今では救急車受入台数は年1万を超える。この救急の現場で患者との「一期一会」を大切にしながら長年、病院を率いてきた石松伸一氏が今年4月、第11代院長に就任した。「自然災害やテロ、感染症との闘いの中で感じるのは、聖路加の現場力とチーム力の強さ。この力を磨いていく」と意気込みを見せる。

 --院長就任にあたり職員らに話したことは

 「『聖路加で働く喜びを実感できる職場となるよう努力したい』と伝えた。職員全員が『今できるベスト』を全うしてほしい。私の今までのスタンスである『職員に対しては日々感謝しねぎらい、患者にはできるだけ声をかける』という姿勢を変えずにいきたい」

 --院長になると現場との距離ができるのでは

 「遠くなったとは思っていない。3月まで主に救急部の現場に立ち、院内の多くのスタッフと接してきた。聖路加の中は熟知している。現在は朝早くから、全ての病棟に顔を出して声をかける。職員の反応はさまざまで、笑顔もあれば疲労や多忙の者もおり、その日の状況を把握する。職員の抱える問題にすぐに解決できなくても、一歩一歩進んでいきたい。聖路加の理念にある『キリスト教の愛の心』を実践する病院。この愛の心をいかに見失わずにいられるか、常にこの理念に沿うためにはどうすればよいかを職員と一緒に考え続けていく。だから現場と離れることはない」

 --キリスト教の愛の心とは

 「93年に救急医として聖路加に採用されてから勤続28年がたった。聖路加が大好きで、ここから離れられなくなった。その理由は自身もクリスチャンで、聖路加の理念『キリスト教の愛の心』を実践したいと思うからだ。そして院長になり、聖路加の職員一人一人が患者やその家族、病める人々のために、身も心も寄り添うような医療を提供してほしいと考えている。また理念にある『生きた有機体』は、医学の発展や時代の変化を敏感に捉え、成長することであり、先進的な教育・研究に支えられた『質の高い安全な医療』を実践する。聖路加に求められる高度な医療を誠実かつ安全に提供し続けることが大きなミッションの一つだ」

 「2012年以来、国際的な病院評価機構であるJCI(Joint Commission International)の認定を3年ごとに受け、世界のトップクラスの病院で行われている医療の安全と医療の質向上への取り組みが聖路加でも実施されている。また19年には看護の世界的基準であるMagnet Hospitalの認証を受けており、看護師からみても磁石のように引きつける魅力ある組織と認められた。引き続き、患者に信頼され続ける医療を提供していく」

 --ところで、キリスト教の愛の心が根付いた聖路加の歴史とは

 「1901年、米国人宣教医師であったルドルフ・ボーリング・トイスラーが米国の医療を提供したいと東京・築地に聖路加病院(17年聖路加国際病院)を創設したのが始まり。宣教の目的にもかなうわけだが、根底にあったのは日本の医療の底上げで、看護師の教育にも注力し、1920年に看護師養成学校『聖路加国際病院付属高等看護婦学校(2014年に聖路加国際大学)』を創設した」

 「それ以来、日本の高等看護教育のパイオニアとして常に先進的で最高レベルの看護を追求するとともに、医療と医療従事者を育て世に送り出し、医療と看護の両面で高い評価を得るようになった。根底にあるのはキリスト教の教えであり、医療を志す人に共通する。聖路加で働く人にキリスト教精神が脈々と受け継がれてきた」

 --地下鉄サリン事件には救急医として関わった

 「救急部ができて3年目、私が赴任して2年目に起きた。その日の朝(1995年3月20日)は上司が不在で、私が責任者を務めた。事件当日の1日だけで640人(このうち110人が入院)を受け入れたが、『大変だ』という感情はなく、たんたんと治療したことしか記憶にない。患者はどんどん運ばれてくるが、どこで何が起きて、その原因が何かも分からず、心肺停止の状態で来た女性もいた。できることを精いっぱいやるしかなかった」

 「院長だった日野原重明先生が『全ての患者を受け入れる。通常業務は止める。手術も緊急以外は止める』と英断。院内に周知すると、手の空いた医師、看護師が救急部に集まり、できることを手伝った。訓練もなく、申し合わせ事項もない中で、全員が力を合わせて緊急事態に立ち向かった。聖路加で働く人がもつ献身的な姿勢と患者への愛であり、キリスト教の精神が創設から100年超続いていることの証だ。何かあったときは患者のために働くという聖路加の理念がサリン事件で確認できた」

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