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富士通が「巨額をかけた残念なシステム作り」から一線を引けるようになったワケ (2/3ページ)

 ■「イノベーターのジレンマ」に直面した富士通

 ウォーターフォールやアジャイルといった方式は、情報システムに限定されない幅広い製品やサービスの開発や生産の基礎となるロジックである。日本では、自動車産業などのように以前からアジャイル的なスタイルの開発や生産が主流となっている領域も少なくない。

 しかし情報システムの開発においては、ウォーターフォール開発が主流だった。ところが、日本のシステムベンダーがお手本としていた米国で、2000年代に入るとアジャイル開発への移行が進んでいく。

 富士通も、米国でアジャイル開発が提唱され、情報システム開発の潮流に変化が生じはじめていることは当然つかんでいた。同社で技術戦略の策定を担当する岡田英人理事によると、同社は変化をとらえるべく学習を進め、アジャイル開発を手がける体制を2000年代の後半には整えるようになっていた。

 しかし、アジャイル開発ができるようになりさえすれば、受注が順調に増加するわけではなかった。富士通が受注するアジャイル開発の案件は伸び悩む。

 これはアジャイル開発に特有の問題ではない。新たな技術や開発手法をマスターしさえすれば、千客万来となるわけではない。なぜなら、顧客との関係を変えなければ、旧来の方式での受注が続いてしまうからである。

 アジャイル開発についていえば、発注する顧客の側はウォーターフォール開発になじんでおり、開発する情報システムの予算と仕様を早期に確定したいと考えていた。ハーバード大学教授のC・クリステンセン氏がいう「イノベーターのジレンマ」に富士通は直面したのである。

 ■顧客課題の性質に応じた開発手法の選択

 アジャイル開発は万能の手法ではなく、利点はあるものの、開発の条件によってはウォーターフォール開発が適することも少なくない。アジャイル開発への受注を拡大するためには、顧客との関係にていねいに向き合う必要がある。富士通ではこのように考え、アジャイル開発の営業を進めてきた。

 富士通では現在、顧客組織の課題をその組織のビジョンや中長期の計画にさかのぼって理解する営業への取り組みを進め、手応えをつかんでいる。同社の金融機関向けのシステム開発や営業を担当する第三ファイナンス事業本部・証券事業部の齊藤弘樹氏によれば、このような営業が必要となるのは、どのような課題の下での業務であるかによって、適したシステム開発の方式は異なるからである。

 例えば、銀行の店舗などで人の手で行っていた作業をシステム化していくような場合には、ウォーターフォール開発を採用する方がむしろ適していることもある。しかし、デジタル技術を活用して、今までになかったビジネスを新たにはじめるような場合には、当初はビジネス・フローの詳細は完全には見通せない。

 ■新しいビジネスのシステム構築に適した「アジャイル開発」

 金融の領域では、フィンテックを活用して、事業者の取引履歴などの分析を融資の審査に活用する新しい事業に取り組むといったケースが近年増加している。このように金融機関の側にも前例がない、あるいはあっても極めて少ないビジネスを、デジタル技術を活用してはじめる場合には、ウォーターフォール開発を採用して早期に仕様の確定を行うと、使わない機能が満載の一方で、肝心の機能が使いにくいシステムが出来上がることになりがちである。経験がない事業や業務に何が必要かを、経験を蓄積する前に見定めることは難しいからである。

 このようなケースではアジャイル開発を採用して、必要最低限の機能のシステムをまず作成し、実際に使ってみることで、付加する機能の必要性の高さを見極め、追加で開発サイクルを回していく方がよい。

 ■新しい開発手法が受注を増やしてくれるわけではない

 富士通が経験したのは、アジャイル開発ができるようになりさえすれば、受注が順調に増加するわけではないという営業問題である。この問題は、発注する組織の担当者が、アジャイル方式での開発を依頼した経験がなったり、少なかったりすることから生じていた。

 経験がなければ、開発方式の適否の見極めの判断は難しい。あるいはアジャイル開発だとどのように発注を行い、設計や構築が進んでいくかも、見通しを立てにくい。そのために、本来であれば適しているはずのアジャイル開発ではなく、慣れ親しんだウォーターフォール開発での発注が続き、残念なシステムがつくられ続けるということすら起きていた。

 そこで富士通は現在では、発注側の組織の経営課題をビジョンなどの上流にさかのぼって理解し、提案を行う営業を強化している。これは、受注するシステムの上位にある顧客組織の課題に向き合う営業であり、顧客がどのようなビジネスのために情報システムを利用しようとしているかのヒアリングを行い、その結果を踏まえて提案を行うという、一種のコンサルティング営業である。

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