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富士通が「巨額をかけた残念なシステム作り」から一線を引けるようになったワケ (3/3ページ)

 ■回り道に見えても顧客とともに考える

 顧客組織の経営課題を、上流にさかのぼって理解する営業の利点はどこにあるか。

 第一に、アジャイル開発とウォーターフォール開発それぞれのメリットとデメリットに通じている富士通は、顧客組織の担当者では判断がつかない選択問題に踏み込んで提案を行うことができる。

 第二に、富士通がアジャイル開発の提案を行う際は、最初に作成する必要最小限の機能は何か、その仕様の検証を踏まえて拡張をどのように進めるか、といった、「ビジネスを育てながらシステムをつくる方法」を顧客組織とともに考え、提案していくことができる。

 目先の受注を増やすそうとするのであれば、この富士通の営業は回り道かもしれない。たしかに顧客がウォーターフォール方式での開発を発注してくるのであれば、手っ取り早いのはそのまま受注する対応である。

 しかしその結果、富士通が納入するシステムが顧客組織の活動の足を引っ張るものとなると、確実に顧客の不満を招くことになる。こうなると、将来の富士通の受注の喪失へとつながりかねない。富士通がアジャイル開発も提供できるのであれば、必要な顧客組織にはアジャイル方式を提案していくことが健全であり、将来のリスクの低減にもつながる。

 ■イノベーションを実現するための2本柱

 こうしたコンサルティング型の営業を強化したことで、富士通では近年、アジャイル開発の受注が増加している。アジャイル開発を経験した顧客がその利点を実感し、次の受注につながるなどの好循環も生まれはじめている。開発する情報システムの全体を早期に確定しないアジャイル開発への理解が、富士通の顧客組織のあいだに広がりはじめている。

 ウォーターフォール方式とアジャイル方式にはそれぞれの利点があり、開発効率等を単純に比較するのは難しい。富士通がアジャイル方式で手掛けたあるプロジェクトで、立ち上げからわずか8カ月で試験運用を開始できた事例がある。これは60%の状態でもいいからユーザーに早い段階で触れてもらい、改良を行いたいという意図に基づくスケジュールで、単純に従来方式と比べて開発期間全体を短縮できたというものではない。

 それでも、2020年に出されたマッキンゼーのレポートによれば、アジャイル方式にヒントを得て組織改革に取り組んだ22の企業では、開発期間や生産性が30~50%改善し、顧客満足度が10~30%高まるなどの成果が見られたという(“Enterprise agility”, McKinsey, March 2020)。富士通もまた、積年の課題だったアジャイル方式の市場導入のボトルネックを克服していくなかで、同様の成果を実感している。

 アジャイル方式という新たな開発方式と、その特性を顧客組織の課題解決に活かす提案を行う営業方式という2本の柱を確立したことで、富士通はアジャイル開発の受注を増やしつつある。アジャイルに限らず、デジタル時代にあって日進月歩の各種の開発方式については、技術的手法をマスターするだけではビジネス機会を拡大させるには十分ではなく、営業をはじめとするマーケティングにおいても新たなやり方を開発していく必要がある。

 

 栗木 契(くりき・けい)

 神戸大学大学院経営学研究科教授

 1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

 

 (神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)(PRESIDENT Online)

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