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ロスを見逃し本末転倒 次世代エネルギーの水素で報じられない「不都合な真実」 (2/3ページ)

 もともと水蒸気改質は、アンモニアなどの化学原料を得るための水素製造用に開発されたのであり、エネルギー媒体製造が目的ではなかった。実際、前記(1)式は吸熱反応(エネルギーを加えないと進まない反応)であり、かつ1000℃近い高温で反応させるため、たくさんの熱エネルギーが必要で、計算すると製造される水素の保有エネルギーの約半分は、製造時に消費されてしまうことがわかる(それだけCO2を排出してしまう)。つまり、元の天然ガスのエネルギーが約半分に目減りする。

 製造時にCO2が発生すると「脱炭素社会」の構築には役立たないということで、発生したCO2を回収・圧縮して海底や地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)を適用することになっているが、CCSにはコストがかかり、エネルギーを消費するので、さらにCO2排出が増えることになる。本末転倒の極みである。

 CCSも「脱炭素の切り札」などとマスコミでもてはやされているが、現実には、大口発生源の火力発電所でさえも実現していない。発電単価の上昇が避けられないからである。

 なおマスコミ等では、天然ガスからの水素は製造時にCO2を出すので「ブラック(またはブルー)」水素、CCSを適用した場合は効率が下がるので「グレー」水素と呼び、水から作った「グリーン」水素と区別している。むろん、この色分けが後者になるほど評価は上がるのであるが……。

 その2:水を分解して水素を得る方法

 最近、「グリーン水素」などともてはやされている水素がある。

 これは水(H2O)を原料として水素を製造するため、製造過程でCO2が発生しない水素を指す。その方法は主に水の電気分解であり、中学程度の化学知識でも理解可能である。電気分解以外の方法としては、高温を用いる熱分解と、太陽光と触媒を用いて光分解する方法があるが、効率その他の問題があり、事実上は電気分解のみである。

 たしかに水の電気分解で水素は作ることができる。しかし、電力は二次エネルギーであるから、これを用いて作る水素は「三次」エネルギーになる。作る過程で必ず目減りするので、必ず元の電力より高いエネルギーになってしまう。CO2が出ないからといって、喜んでばかりもいられない。

 とくに、水素を最も効率的に使う方法は燃料電池を用いることであるが、その産物は電力である。つまり、元の電力を再生可能エネルギー(再エネ)から得るとしても、図式的に表すと、

 再エネ電力→水素→燃料電池→電力となり、→の1段階ごとに目減りするので、これは電力の無駄遣いでしかないことがわかるだろう。

 言うまでもなく、元の電力をそのまま使うのが最も効率的である。また、水の電気分解で水素を製造すると高くつくので、商業ベースで実用された例はない(石油会社などがCMで宣伝している水素は、全部、天然ガス由来)。

 現実的な効率を考えると、水の電気分解(=水素の発生)と燃料電池による発電(=水素の消費)の各段階の実用的効率は60%程度なので、この2段階を経るとエネルギー効率は0.6×0.6=0.36、つまり36%に落ちてしまう。

 水素の利点として(3)貯蔵が効く、を挙げたが、実際には水素を経由すると電力が64%も減ってしまう。蓄えたら64%も電力が減る蓄電池を使う人が、どこにいるだろうか? 電力貯蔵法としても、水素に利点はほとんどない。ムダの典型といわれる揚水発電でさえ、ロスは30%程度で済んでいるのである(水素の64%ロスよりよほどマシ)。

 なお、水を原料とする水素製造法は、1970年代の石油危機以降、さまざまなものが考案されたが、反応速度や効率の面で実用化されたものはない。

 太陽光を用いて水を分解するのは、人工光合成の第一段階だが、同じ太陽光から電力を得るのなら、太陽光→水素→燃料電池→電力のルートよりも、直接的に太陽電池を用いて太陽光↓電力のルートが効率的にもコスト的にも断然有利である。高温ガス炉という原子炉を用いる方法もあるが、これも水素を経由するより直接発電するほうが効率的である(高温ガス炉は現在使われている軽水炉より高くつくので、電力会社には好まれていないが、水素製造が可能との観点から見直す動きもある)。

 水素を使って何をするのか?

 その1:発電する

 前述でも触れたが、水素を最も効率的に使う方法は、燃料電池を使って電力生産に使うことである。

 その効率は約60%にも達するので、燃やして燃料にする場合の最高効率42%程度よりずっと高い。しかし、燃料電池には設備コストがかかる。燃料電池にはいくつかの方式が考案されているが、いずれにせよ正極・負極・電解質からなる「セル」を多数重ね合わせる複雑な構造であって、また発電効率の高いものほど高温を必要とする傾向があり、ものによっては1000℃近い高温になる。

 そのため生成物は液体の水ではなく、水蒸気または熱水である。大規模発電所を燃料電池で作ろうとすると、設備費の制約が大きくなる。実際、1980年代から水素と燃料電池を使って大規模発電所を作る構想は何度も検討されてきた。しかし実際には、設備費その他の制約があって実現しなかった。

 もっと手っ取り早く水素を使うには、現有の火力発電設備の燃料に水素を混入させる方法がある。

 マスコミの宣伝では、これにより火力発電からのCO2排出量が減るから環境にやさしいとされているが、その水素は何から来ているのか? 先にも述べたが、天然ガスから水蒸気改質で水素を作ると、保有エネルギー量が半分になり、出るCO2は燃やす場合と同じなので、それならば元の天然ガスを燃やすほうが断然トクである。

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