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聖火リレー開始から1カ月 つなぐ思い、揺れる意義

 東京五輪の聖火リレーが始まって25日で開始から1カ月。大阪府で公道でのリレーが中止されるなど新型コロナウイルスに翻弄されながら聖火はつながれている。参加したランナーからは五輪への期待の声が聞かれる一方、感染の収束は見えず、否定的な見方も根強い。25日からは3度目の緊急事態宣言が始まり、聖火をつなぐ意義が改めて問われている。(石原颯)

 聖火リレーは先月25日、福島県のJヴィレッジ(楢葉町、広野町)をスタート。東日本大震災が起きた2011年にサッカー女子ワールドカップで優勝した日本代表「なでしこジャパン」のメンバーがスターターを務め、これまでに15府県を聖火がめぐった。

 走ったランナーからは復興への思い、コロナ収束への願いなど前向きな言葉が並ぶ。1964年大会の男子マラソンで銅メダルを獲得した円谷幸吉さんとともに戦った君原健二さん(80)は、胸に円谷さんの写真を忍ばせて盟友の故郷、福島県須賀川市を走り、「オリンピックに出たときのように感動した」と思いを語った。

 大阪市の聖火ランナーとして、万博記念公園(吹田市)内の代替コースを走った山本潤二さん(62)は、脳梗塞で左半身にまひが残るが、200メートルを走り切り、病気も吹き飛ばすような前向きな気持ちになった。「聖火リレーのおかげで『やればできる』と自信がついた」と語った。

 大会組織委員会は「安心最優先」(橋本聖子会長)と感染症対策に腐心してきた。観覧者同士の肩が触れ合うような状態を「密」と定義し、呼びかけなどを行っても解消しなければ走行を取りやめる対策も打ち出している。現場を「事態対応チーム」が常時監視し、上空からの映像も使って密が発生していないかを確認しているが、観覧者が密集するシーンも目立つ。

 組織委の定義する「密」が初めて確認されたのは3月28日の栃木県足利市内。観客の人数が制限された陸上競技場から出てくる男性タレントを一目見ようと多くの人が押し寄せた。組織委は「前後の間隔が取れない状態になった」と認めた一方、走行までには密状態を回避できたとして中止の選択はしなかった。現在まで走行が密によって取りやめになったケースはない。

 ただ、感染状況は日を追うごとに悪化。蔓延(まんえん)防止等重点措置が適用された大阪府(4月13~14日)では初めて公道でのリレーを中止し、代替措置として万博記念公園でランナーと家族ら関係者のみでリレーを行った。愛媛県では松山市内(21日)の走行を中止し、「点火セレモニー」のみを実施。市内を走行予定だったランナー27人が聖火を次の走者のトーチへ移す「トーチキス」だけにとどめる苦渋の決断を迫られた。式典で中村時広知事は「走ることを楽しみにしていた皆さんに機会を与えられず、すみません」と涙ながらに頭を下げる一幕もあった。

 組織委は緊急事態宣言が出ているような地域では到着式のみを行うことも想定。5月1~2日の沖縄県では本島で公道のリレー中止が決定、宮古島市でもリレーや式典を中止する。5月26日に予定されている京都市も中止を要請する方針を表明している。感染拡大の危機が増す一方、機運醸成への期待感はしぼむ。(【「次世代エネ」福島から発信】五輪聖火リレーで水素トーチ疾走)

 五輪の歴史に詳しい東京都立大・武蔵野大の舛本直文客員教授(五輪研究)は「何のために聖火リレーをするのかを問われている」と強調する。舛本氏はスポンサー車両に乗ったDJがマスクなしで沿道の観覧者を盛り上げようとする様子を撮影した動画がSNS上で拡散され、批判を集めたことを指摘。「お祭り騒ぎでは理解が得られない。聖火の普遍的なメッセージである平和や東京大会の持つメッセージを再確認しながら世界をつなげていくという発想に立ち返り、工夫すべきだ」と主張した。

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