ヘルスケア

電子カルテを共有し診療、医師不足で導入した「遠隔医療」がコロナ感染防止に

 医師が情報通信機器(ICT)を活用し、患者と離れた場所から診療を行う遠隔医療。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、院内感染対策や患者の通院控えへの対策として注目されている。北海道中央部の山に囲まれた愛別町では、医師不足対策のために町立診療所に導入していた独自の遠隔医療システムが感染対策につながった。(寺田理恵)

 特養と電子カルテ共有

 要介護度の重い高齢者が入所する愛別町の特別養護老人ホーム「いこいの里あい」で、入所者の1人が体調を崩した。

 「昨夜から発熱。濃縮尿。SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)97%。肺雑音なし。意識清明」。特養の看護師がパソコンを使って電子カルテ(電カル)に症状を記入した。連絡を受けた医師は約30キロ離れた旭川市から電カルを通じて血液や尿の検査を指示する。

 特養入所者の電カルは、同町立診療所や同診療所に医師を派遣している旭川市の「旭川ペインクリニック病院」と共有。診療所に医師がいない夜間や休日の緊急時は、同病院の医師が電カルを通じて診療する。

 特養には新型コロナの抗原検査キットを配備。入所者が発熱し、感染が疑われる場合は医師が特養の看護師に検査を指示する。症状が重く入院させる場合も事前に検査し、入院病棟へのウイルス侵入を防ぐ。

 コロナ対策として電カル共有が役立つ場面は、もう一つある。

 「感染対策のため入院病棟では面会を制限している。入院患者の家族に病院へ足を運んでもらうことなく、診療所で電子カルテを見ながら病状の説明ができる」と的場光昭所長は説明する。

 高齢化に対応

 愛別町の電カル共有システムは当初、医師不足対策が目的だった。

 人口約2700人の同町は昭和34年の約1万人をピークに過疎化が進み、高齢化率は46・4%(令和2年1月)。特養入所者をはじめ日常的に医療を必要とする住民が少なくない。

 しかし、町立診療所は1人しかいなかった常勤医師が高齢のため入院ベッドの維持が難しくなり、平成30年度に無床化。夜間・休日の緊急時に備え、令和元年度にシステムを導入した。

 電カルを通じた診療を行うのは週5件程度で、うち入院を指示するケースが2週に1件程度。特養の入所者が多いが、診療所の患者もいる。同病院へ搬送する場合は電カル上で入院ベッドが確保され、医師が指示した検査の結果も入力される。

 特養の渡辺俊道施設長は「体調を崩すまでの経過を看護師が施設のパソコンを使って電子カルテに入力でき、病歴も全て入っている。細かいところまで医師に確認してもらえる」と使い勝手の良さを強調する。

 低コストとはいえ

 遠隔医療には(1)医師が遠隔地の患者をみる「医師対患者」(2)専門医が遠隔地の医師の診療を支援する「医師対医師」-の2つのタイプがある。

 「医師対患者」タイプについては、厚生労働省が平成30年、ICTを用いたリアルタイムの診療を「オンライン診療」と定義。初診は原則対面だったが、新型コロナ感染を恐れた患者の受診控えも起きる中、昨年4月に初診からの電話・オンライン診療が時限的に認められ認知度が高まった。

 同町のシステムは防災無線などに使う既存の光ファイバー網とパソコンを利用している。高画質・高速化が進む「医師対医師」タイプに比べ「操作が簡便で低コスト。少子高齢化の進む地域の役に立つ」と医療関係者が評価する。

 導入時の費用は同病院の支出4320万円と町の一般財源や国民健康保険特別調整交付金を合わせ約1億4000万円。同病院が開発会社と3年かけてシステムを構築した。電カル共有に当たって、診療所の全ての患者や家族から承諾を得た。

 同病院の運営法人理事長でもある的場所長は「地域の高齢化や医師の偏在などの対策に貢献できるシステム」と自負する一方、「システム構築を小規模の医療法人が手掛けるのは人的・資金的に負担が大きい」と課題を指摘している。

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