中国を読む

アニメで新ビジネスモデルの兆し 単独出資がネック

 野村総合研究所(上海)・板谷美帆

 近年、中国のアニメ産業が大きく成長してきている。2019年には多くの大ヒットアニメ映画が生まれ、「中国アニメ映画元年」とも称された。同年7月公開の「ナタ~魔童降臨~」は、興行収入50億元(約850億円)を記録、9月公開の「羅小黒戦記」は中国でヒットしただけでなく、日本にも輸入・上映された。

 文化大革命で停滞

 中国のアニメ産業を振り返ると、その歴史は古く、1926年には中国初の国産アニメ「大鬧画室」が製作され、41年には中国初かつアジア初となる長編アニメーション映画「鉄扇公主(西遊記 鉄扇公主の巻)」が製作・公開されている。これは翌42年に日本でも配給・公開され、手塚治虫にも影響を与えたといわれている。

 このように世界的にも早い時期にアニメ産業が興った中国であったが、文化大革命の影響を受けアニメ産業の成長は停滞することとなり、その後、改革開放政策の下で80年代の「鉄腕アトム」「一休さん」に始まり、90年代に入っては「ドラえもん」「SLAM DUNK(スラムダンク)」「ドラゴンボール」が人気を集めるなど、輸入アニメ全盛期となった。

 1970年代から2010年頃までの中国のアニメ産業は、総じて「先進国アニメ産業の下請け」の印象が強かったが、00年代以降になると、中国政府によるアニメ産業振興政策と国産アニメ保護政策、インターネット・スマートフォン普及によるアニメのネット配信拡大、そして1980年代以降日本アニメを見て育った世代がアニメ製作に従事し始めたことなどにより、中国アニメ産業は今日の急成長期を迎えることになった。

 成長著しい中国アニメ産業だが、日本に比べると、アニメ作品やキャラクターから派生する周辺ビジネスの規模はまだ小さいのが現状である。日本アニメ産業では、出版・放送・配給関連事業者を中心とし、他領域の企業も参画する製作委員会方式が少なくない。この方式は、大きな資金を集めやすくリスク分散できるほか、玩具、ゲーム、音楽など各領域に強い企業も参画することで周辺ビジネスの拡大につなげやすいというメリットがあり、市場規模拡大に結び付いている。

 単独出資がネック

 それに対し、中国は単独出資方式でアニメIP(Intellectual Property、作品・キャラクターなどの知的財産)は製作会社や特定出資者が保有する場合が多い。周辺ビジネスを拡大しようとする場合、各領域や業種別に提携先を探し、個別交渉をするなどの手間がかかってしまうことも課題として指摘されてきた。このほかにも、フィギュアやキャラクター商品の設計・デザイン会社や製造メーカーが育っていないことも周辺ビジネス拡大のネックの一つとなっているともいわれている。

 近年、中国ではネット時代に合った新たなビジネスモデル形成の兆しが見え始めている。例えば、「IP-bank」と呼ばれるIP取引を行うプラットフォームの出現である。これは、ネットやブロックチェーン(分散型台帳)の技術を活用し、プラットフォーム上でIPの認証、売買契約、ライセンス契約、決済などを一気通貫で行おうとするものである。このプラットフォームはIP取引だけでなく、設計機能とのマッチングにより、IPを活用した商品デザイン設計提案やアレンジに対応する各種製造メーカーとのパイプを有し、製造技術が高くIP保護対応が可能な工場も紹介できる。また、経験豊富なIPマネジャー人材や知的財産関連法律・法規に詳しい法律家などの手配を可能とするなど、「IPエコシステム」の形成に力を入れている。

 今後、日本のアニメ産業が海外ビジネスを展開しようとするときには、これまでの日本とは全く異なる新たなビジネスモデルが出現しつつあることにも注目し、それに柔軟かつスピード感を持って対応する必要がある。日本のアニメ産業が、これまでに蓄積してきた多くのIPを強みとして生かすとともに、刻々と変化する世界のビジネス環境・ビジネスモデルに適応することで、海外事業の拡大を図ることを期待したい。

【プロフィル】板谷美帆

 いたや・みほ 中国・華東師範大学卒。在中国日系エレクトロニクスメーカーを経て、2011年野村総合研究所(上海)に入社。産業三部副総監・主任コンサルタント。専門は中国市場分析・事業戦略、中国政策分析など。東京都出身、北京在住。

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