田中秀臣の超経済学

政府は悪魔、批判する側は天使…予見されていた報道の“偏向” (2/3ページ)

田中秀臣
田中秀臣

 だが、ワイドショーや一部のニュース番組は、報道的事実を伝えるよりも、実際には「娯楽」を提供しているだけだともいえる。つまり市場経済の観点からいえば、報道する側(供給)とワイドショーなどを見る側(需要側)の需給が一致しているだけの現象ともいえるのだ。ただし「娯楽」なので、それが事実や問題の指摘を客観的にしているわけではないことに注意が必要だ。米ハーバード大学のマイケル・ジェンセン教授は論文「報道の経済学に向けて」の中で、娯楽としての報道には以下の特徴があるとした。例えば、ニュースは「危機」をあおりがちだという。日本の財政が危機だとか、あるいは年金制度が破綻すると報道すれば、多くの視聴者の関心を引くことができる。

 本当に定額給付金はムダだった?

 最近では、「現金10万円一律給付 40万人申請せず 約600億円国庫返納へ」(NHK)などというニュースがあった。まるで定額給付金政策が“ムダ”だったかのように誘導されかねない。しかし客観的には、たかだか0.3%ほどの“ムダ”が生じたにすぎない。国民の大多数は、定額給付金を生活支援として活用しただろう。また相変わらず「国民の借金」の多さで、財政再建に誘導するニュースも多い。これらなどはまるで財務省の下請け機関のような役割を果たしている。「娯楽」としてもあまりにも手抜きである。

 また、政治的な出来事では政府を「悪魔」に、それを批判する側を「天使」に仕立て、後者が前者を打ち倒す構図が好まれる。これを、ジェンセン教授は「悪魔理論」といっている。また、なるべく報道は単純なものが好まれるので、複雑な事件の背景は省略されやすい。これを「あいまいさへの不寛容」ともいう。

 例えば、ワクチン接種の状況と連動させて、オリンピック開催を批判する報道を目にした。アメリカの大学の調査をもとにし、日本のワクチン接種の状況が世界100位ほどだとし、そこから「政府は東京五輪開催を目指しワクチン入手と接種加速を強調するが、欧米からは『一大感染イベント』になりかねないとして中止を求める論調が強まる」(共同通信)とするものだ。これをインターネットで報道した共同通信のページには、マスクなしで歩くニューヨークの女性たちの写真が添えられていた。

 だが、事実に即して日米の感染状況を見てみよう。米ジョンズ・ホプキンス大学のサイトでの情報をもとにすると、直近ではニューヨーク州の新規感染者数は1800名、東京都は平日の検査結果を反映した15日だと772名である。人口10万人当たりの新規感染者数は、ニューヨークが9.25人、東京が5.53人である。報道写真のイメージとはかなり異なり、東京の方が単位人口当たりの新規感染者数は少ない。また、世界的にも新規感染者数は日本はかなり低い水準だ。もちろんこれだけで、東京や日本は大丈夫だと言いたいのではない。

 早稲田大学の安中進講師の実証分析だと、「COVID-19による死亡者数が少ない要因は、『病床数が多い』『65歳以上人口割合が低い』という社会経済的要因であると結論」づけている。また、緊急事態宣言のような人流抑制政策は効果があっても、その発現はゆっくりしたものであることを示している。

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