海外情勢

「イランも米国も出ていけ」 イラク、国家再生に難題山積

 【試練のイラク(上)】米軍など有志連合による軍事進攻(2003年)やイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の台頭で混乱が続いたイラクで10日、国会(定数329)総選挙が行われた。外国の干渉排除や宗派・民族の対立解消など、国家再生には難題が山積している。

 「米国はイラクに侵攻して破壊と占領という犯罪を行い、混乱と内戦をもたらした」。首都バグダッドで会ったシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」の報道官、モハメド・モヒ(59)は米国を強く非難した。イラク戦争が起きた03年に創設された組織は反米の最強硬派に属する。

 戦争によるサダム・フセイン独裁政権の崩壊は、シーア派とスンニ派の間でテロが相次ぐ宗派抗争を生んだ。14年からはISがイラクの広い地域を支配。イランから資金や兵器など手厚い援助を受けたシーア派民兵組織は、米軍とともに17年にISを壊滅させた。

 IS掃討への貢献が評価され、翌18年のイラク国会総選挙では、モヒの組織を含む親イラン民兵組織の連合体「人民動員隊」(PMF)と連携する「征服連合」が48議席で第2勢力に躍進した。だが、今回は議席の大幅減が見込まれる。

 イラクで19年、政治腐敗や経済低迷で大規模な反政府デモが起きた際、影響力浸透を図るイランへの批判も噴出。PMFはデモ隊を狙撃して鎮圧したとされ、支持が急落した。

 一方、今回の総選挙ではイランや米国など外国勢力の干渉を拒否するシーア派有力指導者、ムクタダ・サドルの政治組織が議席数を前回選の54から73に増やし、国会最大勢力の座を強固にする見通しだ。

 背景には、「イランも米国ももうたくさんだ。どっちも出ていってほしい」(バグダッドの大学職員の41歳男性)と願う国民が増加したことがある。

 それも無理はない。PMFによる駐留米軍施設への攻撃が相次いだ昨年1月、米軍はイランの周辺国への対外工作を指揮する革命防衛隊の有力司令官ソレイマニと、その盟友のカタイブ・ヒズボラ元幹部ムハンディスをバグダッドで殺害。イランはイラクの駐留米軍基地に弾道ミサイルを発射して報復し、イラクが米、イランの軍事衝突の現場になった。

 米軍駐留に否定的なバグダッド大歴史学科教授、ジャミール・アベドランマ(50)は「米国がイラクに関心を持つのは、親米国イスラエルやサウジアラビアの防衛と、豊富な地下資源を確保するためだ」と述べ、駐留が国家再建や発展の障害になっていると主張した。アベドランマの発言はイラクメディアでもよく取り上げられ、対米批判派の典型的な論法となっている。

 こうした情勢の下、米国大統領バイデンは今年7月、イラク駐留米軍の戦闘任務を年末で終了すると表明した。高まる反米機運を和らげる狙いもにじむ。

 イラク戦争開戦から18年を経て、国民は激しい勢力争いを繰り広げた米国とイランをともに退けようと動き始めた。しかし、汚職に漬かった政界が復興を主導できるのか疑問視する向きは多い。米とイランの影響力が弱まる隙をぬってISが再台頭すると懸念する声もある。イラクの明確な将来像はまだ描けない。=敬称略

(バグダッド 佐藤貴生)((下)は明日10月25日に掲載します)

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